注射に代わるマイクロニードルは「痛くない」だけなのか?高校二年生が探求した「やさしい医療」

2025年9月、コスメディ製薬に1通のメールが届きました。

メールの送り主は滋賀県立守山高等学校二年生のいちかさん。

「現在学校の授業で探究活動に取り組んでおり、ぜひ貴社で取材をさせていただきたいと考えています。」というメッセージでした。この日からいちかさんの「痛くない注射」への探究ストーリーが始まります。

高校生自らが社会の課題を深掘りする「総合的な探究の時間」

「総合的な探究の時間」は、2022年度の高校新学習指導要領改訂で導入された必修科目。生徒一人ひとりが、予測困難な社会の変化に受け身で対応するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、自らの可能性を発揮して多様な他者と協働しながら「未来を切り開くための力を育む」ことが科目の目標です。

メッセージをくれたいちかさんが通う滋賀県立守山中学校・高等学校は、1963(昭和38)年に創設された中高一貫校。「総合的な探究の時間」を中心とする、フィールドワークなどの探究的な学びを積極的に推進されています。守山高等学校の二年生は「総合的な探求の時間」のカリキュラムの一貫として、自らが深掘りしたい課題やテーマを決め、取材先にアポイントをとって実際に取材をするという、学校生活の中でも大規模な取り組みがあるそう。

守山中学校・高等学校Webサイト「お知らせ」より

いちかさんは自身が深掘りしたい社会課題を決め、その「探究取材先」としてコスメディ製薬にコンタクトをいただいたのです。

探究テーマは「注射の痛み」

「注射で泣く子をゼロにしたい」という合言葉で、マイクロニードル技術を研究開発するコスメディ製薬を知ったいちかさん。注射に代わる新技術「マイクロニードル」での薬剤投与メカニズムや、痛みの軽減による患者さまの「治療への安心感」についても専門家の意見を聞きたい、というリクエストを受け、コスメディ製薬のスタッフはいちかさんの取材訪問を大歓迎することにしました。

注射が怖くて泣いてばかりの妹。「痛くない治療の技術」は子どもから大人まで多くの人に安心を与えるのではないか

2025年11月12日。コスメディ製薬にとっても特別な想いのある「マイクロニードル化粧品の日」に、いちかさんはたったひとりでコスメディ製薬 研究開発センターにやってきました。

まずは「なぜ、痛くない治療技術として、マイクロニードルに興味を持ったのか」というスタッフへの説明から、いちかさんの取材が始まります。

「興味を持ったきっかけは、妹が小さい頃、予防接種の注射でいつも泣いていたことなんです。痛みを少しでも減らす技術が、子どもから大人まで多くの人に治療の安心を与えるのではないかと考えました。コスメディ製薬の”注射で泣く子をゼロにしたい”という言葉に強く心を動かされて、ぜひマイクロニードルについて、技術的な側面からお話を伺いたいと思いました。」(いちかさん)

注射に代わる新技術「マイクロニードル」は本当に痛くないのか?

※いちかさんとコスメディ製薬 代表取締役社長 権 英淑

いちかさんが注目した「マイクロニードル」は長さ数百ミクロンの微細な針で、皮膚から薬剤や有効成分を吸収させる技術。医療・医薬領域では、痛みがなく、簡便に薬剤を体内に吸収させる「注射に代わる薬剤投与技術」として、ワクチン投与などへの応用が期待されています。

※医療・医薬品用マイクロニードル

いちかさんはスタッフから、マイクロニードルによる薬剤投与の仕組みについて説明を受け、肉眼では見えないマイクロニードルを初めて大きな顕微鏡で覗きました。

※研究者と一緒にマイクロニードルを顕微鏡で観察

そしてもちろん、大阪・関西万博の会場で子どもたちが「ほんまや!この貼る注射痛くない!!」と大喜びした、マイクロニードルの「痛くない注射体験」も。

※大阪・関西万博でコスメディ製薬が展示をした「痛くない貼る注射」体験

「すごい、これは痛くないです!」といちかさんは笑顔に。注射が怖くて泣いてばかりいた、妹さんの笑顔も想像できたようですね。

スタッフはコスメディ製薬がマイクロニードル技術で「めざす未来」である、「貼るワクチン」についてもお話しました。

現在実用化されているワクチンの大半は注射型製剤ですが、接種に医療従事者を必要とすることや、輸送や保管の際に一貫した低温管理が必要なことから、医療サービスや交通網が充実していない途上国への普及が困難であるという課題があります。

マイクロニードル技術を活用した「貼るワクチン」が実用化されれば、ワクチンの自己投与が可能に。医療サービスが十分ではない国や地域での活用が期待でき、予防医療や感染症対策などに「貼るワクチン」が貢献できます。

大阪・関西万博で来場者の皆さんに「実用化がんばってください!」とたくさんエールをいただいた「貼るワクチン」。いちかさんも私たちがめざす「やさしい医療」に深く共感いただいたようです。

痛くないだけではない!いちかさんが注目した、マイクロニードルによるワクチン投与の効果

「貼るワクチン」について技術的な説明も受けたいちかさんが注目したのは、なんと「皮内投与」でした。皮内には免疫細胞が多く存在していることから、筋肉注射や皮下注射で行われているワクチン投与を「皮内投与」とすることで、高い効果が期待できるというメリットがあるのです。

※皮内投与のイメージ(マイクロニードル、注射器)

注射での皮内投与は、皮膚の薄い真皮層に針を浅く刺入する必要があるため、医療従事者の高い技術が必要。もちろん痛みも伴います。一方、マイクロニードルでワクチンを投与すれば、痛くないだけではなく、免疫細胞の多い皮内に投与できるのです。

「マイクロニードルでのワクチン接種は痛くない、自己投与できる、だけではなく、ワクチンの効果が高くなる可能性もあるということですね。」(いちかさん)

将来は医療領域で働くことをめざすいちかさんの頼もしい視点に、今度はコスメディ製薬のスタッフ全員が笑顔になりました。

調査活動は「インフルエンザワクチン接種」に対する心理的な抵抗感にフォーカス

探究取材も終盤。いちかさんはコスメディ製薬での取材内容に加え、校内でのアンケート調査で検証を行い、結果を発表資料としてまとめたいと言います。

「実際に注射とマイクロニードルの痛みの違いについて、生徒たちに実験することはできないです。何かいい方法はないでしょうか?」(いちかさん)

そこで、コスメディ製薬で検証したマイクロニードルの「痛み評価」の結果も見ながら、調査活動に関するディスカッションを行いました。いちかさんからは守山高等学校が中高一貫校であるメリットを活かして、高校生と中学生で同じアンケートをとり、結果比較を行うというアイディアも。

いちかさんがたてた「問い」は「痛くない注射なら、患者さまが安心して積極的に治療を受けられるのでは?」ですが、確かに実際の注射針とマイクロニードルを刺して、生徒たちに痛みの検証をすることはできません。

※マイクロニードルの「痛み比較」のデータを確認

ディスカッションを重ねて検討した結果「注射針とマイクロニードルの見た目の比較」で検証することにしました。コスメディ製薬のマイクロニードル技術が報道されたニュース番組の中で、注射針とマイクロニードルの比較の動画があり、いちかさんも閲覧していました。

2024年11月12日読売テレビ「かんさい情報ネットten.」オンエアアーカイブをYouTubeで確認
「針の長さ、太さが全然違うので”痛みに対する抵抗感”という心理的な検証ができますね。」(いちかさん)

すでに国内でインフルエンザの流行が始まったこともニュースになっていましたので、中高生も「インフルエンザの予防接種」は想像しやすい身近なトピックです。検証調査は「インフルエンザワクチン接種に対する心理的な抵抗感」にフォーカスし、アンケート調査で「痛みの少ない注射」であるマイクロニードルの可能性を検証することにしました。


こうしていちかさんは探究取材を終え、少しほっとした笑顔で研究開発センターを後にしました。しっかりした印象のいちかさんですが、高校二年生が教員の付き添いもなく、たった一人で知らない企業に訪問し、大人たちに取材をする。初めての経験でとても緊張していたのでしょう。

コスメディ製薬スタッフは数か月後に完結する、いちかさんの探究ストーリーの最終話をわくわくしながら待つことにしました。

いちかさんの探究活動の集大成、発表資料が届く

2026年2月。久しぶりにいちかさんからメールが届きます。

「取材で伺ったお話をもとに検証をし、無事に発表を終えることができました。」との報告。メールにはいちかさんの数か月の探究活動の集大成である、発表資料が添付されていました。

いちかさんの探究ストーリーの成果を、一部見ていきましょう。

インフルエンザ予防接種時の心理的・身体的抵抗感に着目、マイクロニードルの可能性をていねいに検証

※いちかさん作成「総合的な探究の時間」発表資料より

検証調査は「インフルエンザの予防接種」において「心理的・身体的抵抗が低下することで、接種率や治療継続率が向上し、その結果として治療効果の最大化につながるのではないか」という仮説をたて、中学二年生、高校二年生を対象に注射針とマイクロニードルの比較写真を見せてアンケート調査を実施。回答の得られた中学二年生69人、高校二年生207人の計276人の回答を分析しました。

針の見た目に対する評価

※いちかさん作成「総合的な探究の時間」発表資料より

注射針とマイクロニードルの写真を見て、それぞれ「見た目に対する恐怖」を1~5段階で評価してもらった調査結果です。(1=怖くない、5=怖い)

注射針については、4・5程度の「怖い」という評価が中学生が48%、高校生は44%、1・2程度の「怖くない」は中学生が34%、高校生は39%という結果でした。やはり「怖い」という評価が中高生ともに上回っています。

マイクロニードルの評価では「怖い」という人は中高生ともにほとんど出現せず、「怖くない」という評価は中学生が84%、高校生が89%となり、「マイクロニードルは怖くない」と感じる人が大幅に増加。針の「見た目に対する恐怖」の心理的変化が検証されました。

マイクロニードルによる予防接種への抵抗

まず、調査の対象である276人のうち「予防接種への抵抗」について予備調査をしたところ「消極的である」と回答した人が7割を超える結果となりました。痛みや針への恐怖、わずらわしさ、費用の問題など、抗の理由は様々でした。

その上で、痛みの軽減やワクチン効果の向上が見込める「マイクロニードルによる予防接種への抵抗」を調査しました。

※いちかさん作成「総合的な探究の時間」発表資料より

中学生、高校生ともにマイクロニードルによる予防接種に「否定的である」人は3割程度、半数以上が「肯定的」という結果が出ました。予備調査で7割以上が「予防接種には消極的である」という状況を考えると、投与デバイスが注射からマイクロニードルになることで「予防接種に肯定的」である人の割合が大きく増加していることが分かりました。

いちかさんは調査発表のまとめとして「痛みの軽減だけでは抵抗感をなくし、積極的な予防接種をうながすことはできず、様々な面からのアプローチが必要。ただし、マイクロニードルによるワクチン接種の実用化で、注射針に対する恐怖についてはかなり軽減できる可能性が検証できた。特に幼少期からの”痛みに対する恐怖”が軽減されることは治療に関して有効であるといえるのではないか」とコメントをされていました。

いちかさんと共有した合言葉「注射で泣く子をゼロにしたい」

社会には様々な課題がありますが、いちかさんは「痛くない治療は、患者の安心感を生むのでは?」という医療課題に「問い」をたて、京都のベンチャー企業が創る、小さな針の技術を発見して探究してくれました。

いちかさんの探究ストーリーのきっかけとなり、共有した合言葉「注射で泣く子をゼロにしたい」について、一歩前進のニュースが。2023年に私たちが製品化した歯科用マイクロニードル『アネスパッチ』は「歯医者さんが怖い!と泣く子どもたちを笑顔にしています」と全国の歯科クリニックからうれしい声が続々と届いています。
私たちはこれからもマイクロニードル技術を深化させ「貼るワクチン」の実用化に向けて全力を尽くします。

まもなくいちかさんは三年生に進級、高校生活最後の年を迎えます。今後の進路に向けてますます忙しい時間を過ごされるでしょう。
いちかさんのしなやかで伸び伸びとした感性を大切に、社会課題を自ら発見し、解決に向けてチームで自走できる人への成長を願っています。

プロフィール

いちかさん

滋賀県立守山高等学校二年生。※2025年11月当時
「総合的な探究の時間」の探究活動としてコスメディ製薬に取材を申し込む。
「注射が怖い!」と泣く妹を見て「痛くない治療は子どもから大人まで多くの人に安心を与えるのではないか?」という問いをたてた時に「マイクロニードル」を研究開発するコスメディ製薬を発見。「痛くない注射」について深掘りしていく。将来は医療領域で働くことをめざす。

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めざす未来「もっと医療のやさしさをまとえる日常をめざして」

感染症の予防に欠かせないワクチンは、医療の発展と共に技術革新が進んできました。なかでも、注射に代わる新たな選択肢として注目される「貼るワクチン」。マイクロニードル技術を活用したこの次世代ワクチンは、痛みの軽減や簡便な使用が可能で、医療アクセスが限られる地域においても、大きな変革をもたらすと期待されています。
コスメディ製薬は、マイクロニードルの技術を活用した「貼るワクチン」の実用化をめざして研究を進めています。

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