めざす未来
マイクロニードル技術が拓く「貼るワクチン」の可能性
もっと医療のやさしさをまとえる日常をめざして
感染症の予防に欠かせないワクチンは、医療の発展と共に技術革新が進んできました。なかでも、注射に代わる新たな選択肢として注目される「貼るワクチン」。マイクロニードル技術を活用したこの次世代ワクチンは、痛みの軽減や簡便な使用が可能で、医療アクセスが限られる地域においても、大きな変革をもたらすと期待されています。

高まるワクチンの重要性
ワクチンの歴史は、1796年にイギリス人医師エドワード・ジェンナーが天然痘に対する種痘(しゅとう)を開発したことから始まります。 以来220年以上にわたり、感染症に対抗する唯一の根本的予防法として数多くのワクチンが開発・改良されてきましたが、依然として感染症は世界中の多くの命をうばっています。また、高度に発達した交通網により、病気が国境を越えて地球規模に拡大するケースも少なくありません。 ますますワクチンの重要性は高まっており、その市場規模は、2024年約900億米ドルから、2032年までに1,500億米ドル超に成長すると予測されています。※1
UHCの実現とワクチン格差
国連児童基金(UNICEF)のデータによると、毎日4,000人の子どもがワクチンで防げる感染症で命を落としていると報告されています。開発途上国を中心に、ワクチンが十分に行き届いておらず、特に最貧困層の西部・中部アフリカでは約半数の子どもが一度も予防接種を受けられていません。※2
すべての人が必要な医療サービスを受けられるようにするユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に注目が集まるなか、開発途上国では医療施設や医療従事者が不足し、十分な医療サービスを提供できていない現実があります。
たとえば、サブサハラアフリカ地域では、1,000人あたり、わずか2.3人の医療従事者しかおらず、医療資源が限られている国や地域でもワクチン接種率を向上させることが、大きな課題になっています。※3

注射に代わる次世代ワクチンの可能性
障壁となっている課題の一つが、ワクチンの投与法です。現在実用化されているワクチンの大半は注射型製剤ですが、接種に医療従事者を必要とすることや、輸送や保管の際に一貫した低温管理が必要なことから、医療サービスや交通網が充実していない途上国への普及が困難になっています。 こうした課題を解決する次世代ワクチンとして注目されているのが、皮膚から有効成分を吸収させる「TTS(経皮吸収治療)」を用いた「貼るワクチン」。そして、この実現に欠かせない技術が「マイクロニードル」です。
注目されるマイクロニードル技術
マイクロニードルとは、長さ数百ミクロンの微細な針に有効成分を含有させ、皮膚から吸収させる技術です。2020年の世界経済フォーラムでは「世界を変える新興テクノロジートップ10」※4に選出され、使用にあたって高価な機器や高度なトレーニングを必要としないため、医療サービスが行き届いていない地域での検査や治療に役立ち、医療がより身近なものとなる技術と紹介されています。

コスメディ製薬は、早くから注射に代わる薬剤の投与方法として「マイクロニードル」 に着目し、研究を進めてきました 。
2008年には、それまで主流であった金属やシリコン製の硬い基材ではなく、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの「皮膚に含まれる成分」を基材としたマイクロニードルを開発し、より安全性に優れた「溶解型マイクロニードル」の実用化に世界で初めて成功しました。※5

医療・医薬品用マイクロニードル
溶解型マイクロニードルの浸透メカニズム
「溶解型マイクロニードル」は、2022年には「既存のマーケットの常識を覆すような取り組みを推進していること」が評価され、Forbes JAPAN「スモール・ジャイアンツ アワード 2021-2022」でゲームチェンジャー賞を受賞。2023年の「発明大賞」では「優れた発明考案により、わが国産業の発展と国民生活の向上に業績をあげた」として「発明功労賞」を受賞するなど、大きな注目を集めています。
マイクロニードルを活用した「貼るワクチン」のメリット
① 痛みが軽減される
子どもの約3人に2人(68%)、大人でも10人に2~3人(24%)が注射に対する恐怖心を抱えているといわれます。マイクロニードルの微細な針は皮膚の痛覚神経を刺激しにくいため、痛みを感じにくく、出血もありません。
② 簡単に使える
「貼るワクチン」は投与が簡便なため、患者さま、医療従事者の負担軽減につながります。COVID-19パンデミックでは、世界中で迅速かつ、大規模なワクチン接種が求められ、医師をはじめ多くの専門職の関与が必要となりましたが、技術的に自己投与が可能になる「貼るワクチン」なら、より簡便な予防接種体制の実現が期待できます。
③ 常温で保存可能
多くのワクチンは低温・冷蔵、遮光保存が必要ですが「貼るワクチン」は常温で保存が可能です。これにより、冷蔵設備が不足している国・地域でも広く流通・使用されることが期待されています。 ※7 ※8
健康社会の実現に向けて
医療アクセスが限られる国や地域、そして超高齢化社会を迎える日本においても「貼るワクチン」の活用が期待されています。
日本では2008年をピークに人口減少時代に突入し、2010年に超高齢化社会を迎え、2022年は、日本人口29%が65歳以上の高齢者となりました。※9
高齢化による医療費の増大は顕著で、厚生労働省の発表によると2023年度は概算で47.3兆円となり、3年連続で過去最高を更新。増大する医療費の抑制が大きな課題になっています。
また医療需要の拡大と、高齢者を支える生産年齢人口の減少が同時に進んでいる日本では、医師や看護師など医療従事者の安定した確保が難しくなっています。過疎地や離島などでは、医療機関や医療従事者不足と高齢化の加速により、医療アクセスが困難な状況が生じています。
こうした課題を背景に、予防医療の重要性がますます高まっており、より簡便で負担の少ない「貼るワクチン」の、さらなる技術開発と早期の実用化が期待されます。
コスメディ製薬は、マイクロニードルの技術を活用した「貼るワクチン」の実用化をめざして研究を進めています。
また、マイクロニードル技術の活用は「貼るワクチン」に留まりません。内服薬のように消化管や肝臓などに負担をかけず、注射剤のように針の侵入にともなう痛みがない「TTS(経皮吸収治療)」の可能性を追求し「肥満症の治療薬投与」などへの応用をはじめ「血糖値を測定するマイクロニードルパッチ型センサー」の開発など、様々な医療課題に向き合う研究を進めています。
この技術が、世界中の健康を守り、誰もが医薬・医療の恩恵をもっと身近に感じられる、豊かな社会が実現されることを願っています。

※1 https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/業界-レポート/ワクチン市場-101769
※2 UNICEF世界子供白書2023
※3 https://www.jica.go.jp/oda/project/1600429/index.html
※4 https://jp.weforum.org/agenda/2020/12/wo-eru-na2020-no-tekunoroji-toppu10/
※5 公益社団法人日本薬剤学会発行 学会誌「薬剤学」より
※6 予防接種を受ける乳幼児の苦痛や苦痛緩和に対する親の認識と行動
※7 ワクチン類の保管温度
※8 貼るワクチンが年間150万人の子どもの命を救う
※9 内閣府「令和5年版高齢社会白書」